附中式辞



2002年度(平成14年)
入学式 4月 9日
卒業式 3月11日
2003年度(平成15年)
入学式 4月9日
卒業式 3月12日

いずれも予め準備した原稿です。当日は、その場で若干の修正を加えてました。





2002年度(平成14年)入学式 4月9日

式    辞

 今年もすばらしい春がやってきました。
 本日、ご来賓の方々と保護者のみなさまのご臨席を賜り、熊本大学教育学部附属中学校の入学式を挙行できますことを、心から感謝し、厚く御礼申し上げます。

 161名の新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
 みなさん。今日からいよいよ中学生です。これから3年間は小学校のときよりも、もっと多くの人と出会うことになります。そして、これまでとは違った多くの経験も積んでいきます。小学校とは違った勉強や学習も増えていきます。どれも、みなさんが立派な大人に成長していくために必要なものばかりです。これから始まる中学校での生活を楽しみにしておいてください。

 ところで、新入生のみなさん、、あなた方は100年以上も続いてきた学校の仕組みが変わる、記念すべき年に中学生になるのです。それは、学校週5日制といわれるものです。これまで学校は、第2土曜日と第4土曜日だけがお休みでした。ところが、今年からは、すべての土曜日が休みになるのです。
 ここで、疑問に思う人もいると思います。大人たちは「週休2日」という言い方をします。土曜日と日曜日の2日間を休むので「週休2日」と呼んでいるわけです。それなのに、みなさんの場合はどうして「学校週5日制」というのでしょうか。じつは、これには、それなりの理由があるのです。大人たちは一生懸命に「仕事」をします。しかし,「仕事」をしているばかりでは疲れますから、休みも必要になります。そこで、1週間に土曜・日曜の2日は「仕事をしない」で休むのです。そうした理由で、大人の場合は、「週休2日」と呼んでいるのです。
 それでは、みなさんのような中学生にとって何が「仕事」なのでしょうか。「勉強することだ」と考える人もいるでしょう。もちろん、それも間違いではありませんが、みなさんの「仕事」はそれだけではないのです。じつは、みなさんにとっては、生きている時間のすべてが「仕事」なのです。友人と遊ぶことも、家庭でお話をしたり食事をすることも、そして家族旅行に行くことも、大人になるために必要な「仕事」なのです。「十分に睡眠を取る」ことさえも、「仕事」ということができます。睡眠は健康な生活を送るために欠かせないものだからです。こうして、みなさんにとっては、24時間のすべてが「仕事」になるのです。ただ、そのうち「学校に行く仕事」が月曜日から金曜日までの5日間ですから、「学校週5日制」というのです。ですから、学校がないときも、自分たちの大切な「仕事」の時間を有意義に過ごす必要があるのです。
 また、「総合的な学習」という新しい時間もあります。これには、いままでのように教科書はありません。みんなが楽しく有意義な人生を送ることができるような力を身に着けるために行われる授業です。附属中学校の先生方は、ずっと前から、「総合的な学習」について研究と実践を進めてこられました。ですから、みなさんは十分に満足できる「総合的な学習」を体験できると思います。また、この他に、自分たちで勉強したいものを選ぶことができる「選択科目」も準備されています。
 このように、中学校では、多くのことを学び体験します。そこで大切なことは「自主性」です。自分で考え、自分で行動していくことです。ときには、思い通りにいかないこともでてきます。それも大人になるために必要なことです。世の中は、すべてがうまくいくものではありません。そんなとき頼りになるのが周りの人たちです。それは友だちであり、家族であり、もちろん先生方です。こうした人たちと話をするだけで、悩みも解決していくのです。そのためにも、お互いに、周りの人たちを大切にしましょう。ときには、みなさん方が、困っている人の力になることもあります。そうした中で、自分も相手も理解を深め成長していくのです。とくに、自分の家でも、家族の方とすすんで話しをしましょう。学校での出来事や友だちや先生のことなど、何でも話しましょう。話すことこそが、私たちが元気に生きていくために最も大切なことなのです。
 そして、元気よく生きていくためには、まずは「あいさつ」が大事です。朝から「おはようございます」と大きな声であいさつしましょう。それがちゃんとできれば、その日はずっと気持ちよく過ごせます。先生に会ったときも、「自分の方が先にあいさつするぞ」という気持ちでいてください。先生から、「あっ、生徒に負けた」といわれると楽しい気分になるはずです。みなさん、今日から元気に中学校の3年間を過ごしましょう。
 最後に、保護者の皆さまにお願いがございます。子どもは「みんなで育てる」ものです。最近では、家庭・学校・地域の連携が強調されています。しかし、その中でも家庭でのコミュニケーションは生活の基本です。お子さまとの毎日の関わりを大切にしていただきたいと思います。また、教師とのコミュニケーションも欠かせません。その点で学校とも積極的に関わりを持っていただきたいと思います。さらに、附属中学校は教育実習や研究活動、新しい教育的試みを展開する重要な役割を担っています。こうした背景も十分にご理解いただき、ご支援をいただきますようお願い申し上げて、式辞といたします。

 平成14年4月9日
 熊本大学教育学部附属中学校長 吉田道雄










2002年度(平成14年)卒業式 3月11日
式    辞

 今年も、すばらしい旅立ちの季節がやってきました。
 本日、ご来賓の方々と保護者のみなさまのご臨席を賜り、熊本大学教育学部附属中学校第55回卒業式を挙行できますことを、心から感謝し、厚く御礼申し上げます。

 162名の卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
 みなさんは、これで無事に義務教育を修了しました。これからの日本の将来を担うために必要な基礎的・基本的な力を身に着けたことになります。これからは、その力を生かして、自分の人生を切り開いていってください。

 今わたしは義務教育を終えたといいました。「義務」というと、「本当は嫌なんだけど、しなければいけないから仕方がない」という感じがしますが、みなさんはどう思いますか。ここで、みなさんの中学校での3年間を思い出して下さい。「嫌なんだけど、仕方なく過ごしたな」。そんな思い出でいっぱいですか。そんなことはありませんね。それは、みなさんの顔を見れば分かります。もちろん、時には苦しいことや嫌なことがあったかもしれません。けれども、そうした体験も、もう懐かしい思い出になりつつあると思います。それらが楽しい体験と重なり合いながら、これからの人生のエネルギーになっていくのです。そうです。「義務」をきちんと果たすことは、「喜び」に繋がるのです。「楽なこと」「好きなこと」だけをしていては、心に残る思い出はできません。これからも、同じことです。人生は楽しいことばかりではありません。苦しいことも、つらいこともあるに決まっています。そんなときに、「これもいつかはきっと思い出になるぞ」「この体験をむしろ自慢話にするぞ」。そんな気持で、多くの問題や課題に挑戦していきましょう。目の前にいるみなさんを見ると、そうした力がみなぎっているように思えます。

 ところで、みなさん方とは、ちょうど1年前に知り合ったのでしたね。まだ、何日か前まで小学生だった新入生を迎えた、入学式のことを思い出します。ひよこのような新入生の後ろに、落ち着いて座ったみなさんの迫力のあったこと。「すごいなー」と思いました。そして、歓迎遠足や体育大会で発揮したリーダーシップは素晴らしいものでした。わたしは、「リーダーシップ」について考えることを仕事にしています。その目から見ても、みなさんの迫力あるリーダーシップには感動しました。その新入生たちが、いま後ろにいます。どうですか、もう立派な附中生に育っていますね。中には何年も前から附中生といった落ち着いた顔さえ見えるではありませんか。こうした後輩たちの成長にも、みなさんの力が大いに貢献しているのです。これこそが、附属中学校の伝統であり、それをみなさんは、後輩たちに確かに伝えてくれたのです。

 わたしの思い出は続きます。みなさんの教室に行ってお話しをしたこともありました。みなさん憶えていますか。「朝からワクワクで行こう」の話を…。「小は大を兼ねる」という話を…。みんなが一生懸命に聞いてくれるので、わたしも楽しく話ができました。わたしが伝えたあのメッセージ、実生活に生かしてくれてますか。わたしは、その後も相変わらず「ワクワク」で過ごしています。このごろ、わたしは自分の影と楽しんでいます。毎朝、わたしは自分の影を追いかけながら学校に出かけます。「おい待てよ、逃げるなよ」と言いながら影を追いかけます。ですから、ついつい早足になってしまいます。また、帰りは逆に影から追いかけられます。今度は、影が「寄り道せずに早く帰れ」といっているようです。そう考えるだけでまた楽しい気分になっています。昼間は、影に気づかなくなります。太陽が真上にあるときは、ほとんど影ができなくなってしまうからです。わたしたちは、日が照って元気がいいときには、自分の影に気づかないのです。ついつい調子に乗ってしまうのです。そんなときにこそ、自分の影を見る力がいるのだと思います。それは、自分をを振り返る力、反省する力のことです。こうして、わたしの影は、またいろいろなメッセージを伝えてくれるのです。みなさん、これからも「ワクワク」の種を探しながら、未来に向かって前進してください。そして、新しい「ワクワク」を見つけたら、人にも教えてあげましょう。チャンスがあったらわたしにも教えてほしいと思います。こうして、みなさんと楽しい思い出を作っているうちに、あっという間に卒業の時期を迎えることになりました。わたし自身は、みなさんと短いお付き合いでしたが、たくさんの思い出ができました。心から感謝しています。
 
 みなさん、附属中学校3年間に出会った先生方、そして友だちの思い出をしっかり心に刻んでください。そして、附中卒業生としての誇りを持って、新しい道に踏み出しましょう。ご両親はじめ、自分を育ててくださった方々に対する感謝の気持ちも忘れずに持ち続けてください。

 最後になりましたが、最近わたしは「人生Cha,Cha、Chaでいこう」と提案しています。それは、”Challenge the Chance to Change Yourself”、”Challenge the Chance to Change Yourself”のこころです。”Challenge Chance Change”の C h a で始まる3つの単語からできているので、「Cha,Cha、Chaのこころ」というわけです。「自分が変わるチャンスにチャレンジしよう」という意味です。文句や不満ばかり言っていても問題が解決するわけではありません。「人が変わらない」といって嘆いても仕方ありません。「まずは自分が変わってみよう」。そんなチャレンジをしようではありませんか。自分が変われば、周りもきっと変わります。ここで大切なのは、「自分が変わること」を「いやなこと」と考えないことです。それは自分にとって「最高のチャンス」なのです。みなさんに、「Cha、Cha、Chaのこころ」をプレゼントして、式辞といたします。

 平成15年3月11日
 熊本大学教育学部附属中学校長 吉田道雄










2003年度(平成15年)入学式 4月9日
式    辞

 今年もすばらしい春がやってきました。
 本日、ご来賓の方々と保護者のみなさまのご臨席を賜り、熊本大学教育学部附属中学校の第56回入学式を挙行できますことを、心から感謝し、厚く御礼申し上げます。

 158名の新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
 みなさん。今日からいよいよ中学生です。これから3年間、附属中学校の生徒として過ごすことになります。中学校では、小学校とは違った勉強や学習が増えてきます。また、先生や友だちと新しいお付き合いも始まります。これから始まる中学校での生活を楽しみにしておいてください。

 さて、新入生のみなさん、「綱領」ということばを知っていますか。それは、学校のみんなが目指す目標のことです。附属中学校の綱領は、「真実を求めて」、「響きあえ、たくましい体で」「響きあえ、厳しい知性で」「響きあえ、豊かな心で」というものです。「体」と「知性」と「心」の3つの柱で「響きあう」ことを大切にするのです。「響きあう」。それは、お互いにいい影響を与えあうことです。それでは、素晴らしい響きあいをするには、どうしたらいいでしょうか。何と言っても、自分の考えをしっかり持って、自主的に行動することです。もちろん、、自分の考えを主張するだけでは、響きあいは生まれません。他の人たちの意見や考えをきちんと受け止める力が必要です。わたしたちは、一人一人、顔が違っています。同じように経験や考え方も違っています。そうした違いを認め合って、お互いが納得できるように話し合っていくことが大切なのです。そのためには、「強さ」と「優しさ」が求められます。自分の意見をはっきり言うには「強さ」が必要です。けれども、相手の立場や気持を考えずに、言いたいことを言うだけでは、困ります。他の人の立場になってものを見たり考えたりする力がいるのです。そのためには、相手を思いやる「優しさ」がなくてはならないのです。

 みなさん、「強さ」と「優しさ」、そして「思いやり」の気持を持って、今日からお互いに「響きあい」の生活を始めましょう。幸い、附属中学校では、「響きあい」のチャンスがたくさんあります。来週は歓迎遠足です。5月には体育大会も待っています。そうした行事では、後ろにいる2年生、3年生の先輩たちが一生懸命に指導してくれます。そのとき、みなさんは、先輩たちがしっかりしていることに驚くに違いありません。先輩たちとのふれあいを通して、「響きあい」がどんなものかを掴んでほしいと思います。

 ところで、みなさんは、東京都千代田区のポイ捨て条例を知っていますか。それは、たばこをポイ捨てすると罰金を2千円払うというものです。本当の罰金は2万円以下なのですが、しばらくは二千円ということです。ニュースでは、たばこだけが目立っていますが、空き缶を捨てたり落書きすることも禁止されています。少し前のことです。わたしは、東京に行く機会がありました。そのとき、千代田区を歩いて、道に吸い殻がほとんどないことに驚きました。たばこだけではありません。ガムやお菓子の屑も見あたりませんでした。これに対して、熊本はどうでしょうか。残念ながら、道のあちこちに、たばこの吸い殻をはじめ、いろんなゴミが落ちています。ここで、わたしは東京が素晴らしいと言いたいのではありません。東京でも、わたしは「やれやれ困ったものだ」という気持になったのです。どうしてだか、わかりますか。それは、東京だって、罰金をとられないと、道はゴミであふれていたのです。そんなことだから、自分たちの自由を奪う規則やきまりがどんどんできるのです。わたしたちは、自分で善悪の判断ができるはずです。「悪い」と思ったら、我慢して「自分はしないぞ」という強い気持を持ちたいと思います。そんなとき、「他の人もしているからいいじゃないか」という悪魔の声が聞こえてきます。でも、そこで、ぐっと我慢してみることです。そこで、わたしは、みなさんに「やせがまん運動」をはじめるよう提案したいと思います。よくないと思ったら、「他の人がしていても、自分はしない」というやせがまんです。大人の中にもポイ捨てをする人がいます。そんな大人たちには大いに反省してほしいですね。でも、「だから自分もするぞ」と思わずに、ぐっと「やせ我慢」するのはどうでしょうか。みんながそんな気持になれば、世の中は少しずつよくなると思います。みなさんの力で、そうした世の中を作っていってほしいと思います。さあ、今日から「やせがまん運動」に取り組みましょう。

 ともあれ、わたしは、みなさんに、毎日を楽しく元気よく過ごしていただきたいと願っています。そのためには、「あいさつ」が大切です。朝から「おはようございます」と大きな声であいさつしましょう。それがちゃんとできれば、その日はずっと気持ちよく過ごせます。お家でも学校でも、「自分の方が先にあいさつするぞ」という気持ちでいきましょう。朝の挨拶こそは、「響きあい」の基本です。

 最後に、保護者の皆さまにお願いがございます。子どもは「みんなで育てる」ものです。最近では、家庭・学校・地域の連携が強調されています。しかし、中でも家庭でのコミュニケーションは生活の基本です。お子さまとの関わりを大切にしていただきたいと思います。また、教師とのコミュニケーションも欠かせません。その点で学校とも積極的に関わりを持っていただきたいと思います。また、附属中学校は教育実習や研究活動、新しい教育的試みを展開する重要な役割を担っています。こうした背景も十分にご理解いただき、ご支援をいただきますようお願い申し上げて、式辞といたします。

 平成15年4月9日
 熊本大学教育学部附属中学校長 吉田道雄










2003年度(平成16年)卒業式 3月12日
式    辞

 今年も、すばらしい旅立ちの季節がやってきました。
本日、ご来賓の方々と保護者のみなさまのご臨席を賜り、熊本大学教育学部附属中学校第56回卒業式を挙行できますことを、心から感謝し、厚く御礼申し上げます。
 159名の卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
 みなさんは、これで無事に義務教育を修了しました。こらからの日本の将来を担うために必要な、基礎的・基本的な力を身に着けたことになります。今後はその力を生かして、自分の人生を切り開いていってください。
 ところで、今の日本はたくさんの課題を抱え、とても厳しい時代を迎えています。みなさんも知っているように、今から60年近く前、日本は戦争に敗れ、至るところが焼け野原になってしまいました。そんな中で、人々は希望を捨てず、一生懸命に働きました。その努力が実って、気がつけば世界でもトップを争う裕福な国になりました。しかし、その調子がよすぎたためでしょうか。ついつい傲慢な気持ちが生まれてきました。お金さえあれば何でもできる。もう外国から学ぶものはない。あちこちでそんな声を聞き始めたのが1980年代終わりの頃だったでしょうか。まさにバブル絶頂の時代でした。けれども、そんな時代が長続きするはずがありません。あっという間にバブルははじけて、厳しい時代を迎えることになったのです。それは、ちょうどみなさんが生まれた頃のことでした。それからというもの、日本は元気がなくなりました。そして、日本人は第二の敗戦などといって、みんなが懺悔しているように見えます。私は、こんな状態をとても残念に思います。私たちの持っているすばらしい力を結集すれば、日本は必ず元気になるのです。その中心になるのが、みなさん、あなた方なのです。

 今こそ、私たちがいつの間にか忘れてしまった大切なものを思い出すチャンスです。このごろの日本を見ていると、ダーウインの進化論が頭に浮かびます。私たちは、時間とともに進化しつづけていると思ってはいないでしょうか。しかし、それは私たちの思い込みのような気がします。ダーウインは「使わないものは退化する」ともいっています。私は、少し前から日本人が使わなくなったものがあると思います。それは「心」です。日本が敗戦からようやく独り立ちしたころです。東京でオリンピックが開かれることになりました。そのとき、外国からたくさんの方が来られることが予想されました。そこで、少しでも気持ちよく過ごしてもらおうということで、「小さな親切をしよう」という運動が呼びかけられました。とてもいいアイディアだったと思います。ところが、しばらくするとそれを冷やかす文句が生まれました。なんと、「小さな親切、大きなお世話」といって笑うのです。じつに寂しいことです。私は思います。「小さな親切、大きなお世話」などと言い始めたころから、日本人の心は退化し始めたのではないかと。そんな日本に心を取り戻すのは、みなさん、あなた方なのです。そのためにも、私は新しい運動を提案したいと思います。それは、「小さな親切、大きな感謝運動」です。感謝は人の心を温かくします。附属中学校では先生方と、友人たちと、もちろん保護者のみなさま方とともに、感謝することの大切さを学んでくれたと思います。ぜひとも、これからこの運動を広めていってほしいと思います。

 さて、みなさん方とは、ちょうど二年前に顔を合わせました。それからというもの、本当に楽しい時間を過ごさせてもらいました。遠足から体育大会、そしてスケッチ大会に合唱コンクール。私にとって、どれもが心に残るものばかりでした。生まれて初めて指揮棒を振った県立劇場の体験も感激でした。みんなが笑ってくれたのでほっとしました。出前の押し売り授業も私の貴重な思い出です。みんなが熱心に聞いてくれたので、私も気持ちよく話すことができました。「うんうん、そうだ」。みなさんのそんな顔を見て、私の気持ちも弾んできたことを思い出します。人とかかわるときは自分の気持ちを態度に表すことが大切だと思います。これからも、あの授業中の雰囲気を大事にしながら成長していって下さい。

 先ほどダーウインを話題にしましたので、もうひとりニュートンの名前も挙げたいと思います。みなさんもニュートンの「慣性の法則」を知っていますね。「静止した物は外から力が働かない限り静止し続ける」「同じ速度でまっすぐ動いている物は外から力が働かない限り、同じ速度で動き続ける」。これが慣性の法則です。それは、物体という物について当てはまる法則です。でも、「モノ」という字はもう一つありますね。そうです「若者」などというときの「者」です。私はニュートンはすごいなと思ってしまいます。彼は宇宙の物体だけでなく、私たち人間の行動についても法則を発見しているからです。みなさんどうですか。私たちは、「静止したままで」、自分を変える努力を惜しんではいないでしょうか。また、これしかないと思ったら、人のことなどお構いなしに行動してはいないでしょうか。これでは、私たちは、「モノ」と同じになってしまいます。大切なのは自分で考え自分で行動することです。そして、自分の行動を振り返ることです。そうそう、みなさんの心の中に二頭のラクダは住んでいないでしょうね。一頭は「今のままがラクダ」。そして、もう一頭は「何もしない方がラクダ」。こんなラクダがいると、ついつい「慣性の法則」にはまってしまうのです。二頭のラクダは動物園へ帰ってもらいましょう。そして、みなさんは、前を見据えながら自分の意思で行動していって下さい。それによって、「慣性の法則」を乗り越えることができるのです。

 みなさん、附属中学校三年間に出会った先生方、そして友だちの思い出をしっかり心に刻んでください。そして、附中卒業生としての誇りを持って、新しい道を踏み出しましょう。ご両親はじめ、自分を育ててくださった方々に対する感謝の気持ちも忘れずに持ち続けてください。もちろん大きな感謝ですよ。

 最後になりましたが、みなさんは「小は大を兼ねる」という私のことばを憶えていますか。みなさんへの授業でお話ししたことです。毎日の小さなことに喜び、それを心から楽しみましょう。それができる人は、中くらいのことがあればもっと喜べます。そして、大きなことがあれば、もっともっと楽しめるのです。みなさんに、「喜びや楽しみ」は「小は大を兼ねる」ということばをプレゼントして、式辞といたします。

 平成16年3月12日
    熊本大学教育学部附属中学校長 吉田道雄